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腕時計の電池の交換は自分でやっても大丈夫?

ABUNDANT TIME 代表 壽藤

今までバックヤードや自宅で修理作業に没頭しておりましたが、お店をオープン

してから店頭に立つようになり、多くのお客様からご縁をいただいております。

時計の修理していると3〜4時間が「あっという間に」経過しますが、様々なご

職業のお客様から、お仕事のお話を伺うのもとても楽しく同様に「あっという間に」

時間が経過してしまいます。

その時間帯は、きっとお客様におかれましても、ゆっくりとくつろげる空間にな

っているのだろうと大変嬉しく思う次第でございます。

お話を伺いながらオーバーホールの承りをするのですが、「電池交換」のご用命

も多く承るようになりました。

もう随分と長いこと機械式時計専門でございましたので、理解していたつもりでは

おりましたが、クォーツ時計をお持ちのお客様が多いことに改めて驚いております。

つきましては今一度、現在のクォーツ時計の動向を捉えるべくリサーチしていたところ…

「自分で時計の電池交換をしてみよう!」

というサイトや動画を多く目にしました。

ご自身で試みる理由として挙げられていたのが

「電池交換を安く済ませたい」・「なかなか持ち込む時間がない」

なかには単に「やってみたい」と好奇心から始められる方もいらっしゃいました。

どのサイトも流れとしては「電池交換が簡単に出来るキット」を紹介されておりま

す。100円ショップなどでキズミ(ルーペ)とオープナーの2種類で300円。

「オモチャのようだけど、キズミまで付いているなんて!」

10年以上も前になりますが、100円ショップにこのセットが売れられているのを始

めて見た時は笑ってしまいました。

新しいことにチャレンジする。 本当に素晴らしいことだと思います。

しかし、時計の電池交換においては全く別のお話です。

もし、上手く出来たとしても、それは単にラッキーであったと言えるでしょう。

各種時計用電池

ニットを着れない時計師

何故か“ボタン電池”となるとお手軽感がありますよね。

ワードのニュアンスから、なんとなく理解出来ます。

しかし、電卓や家電のリモコンなどの電池を交換するのと、時計の電池を交換する

のとでは、用いる工具だけでなく注意を向ける意識が全く異なります。

クォーツ時計は極々小さなチリやホコリ1つで止まります。

或いは抵抗値や消費電流が高くなり、電池の消耗が早まります。

触れてはならない回路基盤に触れてしまったり、コイルに触れて断線させてしまう

危険性も高くございます。

(時計師でもコイルを断線させてしまうこともあり、非常に切れやすいので取り扱

い要注意のパーツです。)

そして、肌では感じられない小さな静電気を生じさせてしまうと…….

一発で回路がショートします。 結果、時計は止まります。

時計師が白衣を着る理由。

そしてニット着用NGの理由はココにある訳です。

私の場合は完全に定着してしまっているので、プライベートでもニットを着ません。

たまたまなのかも知れませんが、私の友人・知人の時計師もニットを着ているのを

見たことがございません。

常時、修理室とワークベンチが清潔に保たれているからこそ、修理や電池交換が可

能になります。

電池を入れ外しする工具。電池を取り扱うピンセット。絶縁シートのクリーニング。

全てクォーツ専門の工具を使っております。

(中には使わない時計師の方もいらっしゃいますが、リスクを回避する為には絶対

に基本に忠実で在るべきです。)

高級時計とされる300万以上のクォーツ時計でも、廉価なクォーツ時計でも同じボ

タン電池を使いますが、どのタイプの時計もオーバーホールや電池交換する時の

時計師の作業とクォリティは全く同じになります。

電池交換の為の測定器と工具

結論、お勧めは出来ません。

ご自身で電池交換をされて時計が動かなくなってしまった場合。

その時計を修理会社に持ち込まれても、お断りされる可能性がございます。

また、クォーツ時計に限らず機械式の時計も裏蓋が開かれた状態、または開かれた

痕跡アリと修理会社が判断した場合も同様です。

クォーツ時計は機械式時計と比較しますと意外に簡単な作りをしております。

精度は回路によって決まりますので余程のことが無い限り、調整(回路の書換え)

することはございません。

その代わり汚れ、チリ、ホコリの混入が無いよう、とにかく徹底的に綺麗にOH

することが必須となります。よって新任時計師が担当することが多い時計です。

まっさらで一点の汚れも無い状態にOH出来るよう、クォーツ時計を通じて叩き

込まれます。

「どうもおかしいぞ….」となったら、

まず汚れやチリ、ホコリ混入による影響が第一に考えられるがクォーツ時計です。

時計の勉強を数年間して来た学生が、職場でお客様からお預かりした時計を扱う

緊張感を持ち、やはり数年間みっちり仕込まれてマスターするクォーツ時計。

電池交換と言えども、如何にご自身で時計の電池交換することがリスキーであるのか?

お分かりいただけるかと存じます。

「壊しても構わない。やってみたい!」という覚悟で電池交換される以外は絶対にお

勧め出来ません。

くれぐれも他人から預かった時計を電池交換されることの無いようお願い致します。

修理会社にも問題アリ

クォーツ時計の裏蓋内に貼られた紙製シール

写真のようにクォーツ時計の裏蓋内部に「電池交換00月00日」といった

紙製シールが貼られている状態を未だに多く見掛けます。

先日も止まりの症状でお預かりしたクォーツ時計にもこのシールがございました。

シールの感じから古いタイプの手法と思われます。

写真とは別タイプの紙シール(店名が入っていたので掲載出来ません)には電池交

換する度に記入する欄が何行も設けてありましたので、これを貼ったままにされて

いるのでしょう。

上述しておりますが、微細なホコリ1つで止まってしまう可能性があるクォーツの

機械に対し、写真のように確実に劣化し剥がれ落ちる紙製シールの貼付は正しくありません。

お預かりした時計のOHや電池交換の履歴は、修理会社の方で管理・把握しておくべ

きであり、どうしても記入する場合は油性マジックなどで対応すべきところでしょう。

残念ながら、このように修理会社でもクォーツ時計への認識が低いところがございます。

プロとしてお客様からお代をいただいている分、修理会社の方が駄目ですね。

お引き渡しに際には憶測を除く全て状態をお客様にお伝えしておりますが、

時計にとってBESTである正しい時計修理の啓蒙活動をして参りたいと思います。

当店の電池交換は必ずセットになります。

▼日本製電池に交換

▼防水パッキン交換

▼防水検査×2回(パッキン交換前・交換後)

▼電池、歩度、消費電流、回路、各種測定

▼磁気抜き

電池交換セット価格 3,300円(税込価格)

電池交換と言えど、これらの作業は必須です。

電池交換でも防水検査は絶対に必要です

最後に誠に恐縮ではございますが、デジタル時計、デジアナ時計、電波時計、

ソーラー時計、キネティック(発電機内蔵時計修理をお断りしております。

これに伴い、“二次電池の交換”もお断りしております。

対応出来る電池をご用意しておりません。

配線処理から、回路ショートやバックライトのトラブルが発生する可能性が

ございます。これらの作業は時計師の専門外となりますので、上記の時計の

電池交換はお買い上げ店、またはメーカーにお問い合わせくださいませ。

ABUNDANT TIME 代表 壽藤