世界の時計とブランドを深掘りブログ 第3回
ABUNDANT TIME 代表 壽藤
HAMILTON HISTORY
今回の深掘りは「ハミルトン」でございます。いつものように少し別角度からご紹介したいと思います。
深掘りするにあたり、例によってアメリカ時計ナードコミニュティーのメンバーに色々と聞き込みしました。
「アメリカ最後の偉大な時計メーカーだよ。」「今はMADE IN SWISSとなってるけど、ハミルトンの心は今でもアメリカだよ!」とのことでございました😆
ハミルトン専門販売店が有れば、ハミルトン専門コレクターもいらっしゃいます。当然、ハミルトン専門の修理業者だっておる訳です。
アメリカ生まれのハミルトンは1892年〜1969年までの77年間。現在はスウォッチグループの一員ですが、今でも多くのファンの方がいらっしゃいます。
「アメリカ経済と文化の発展とともに成功した時計メーカー」でありアメリカ人に愛されている時計メーカーです。
アメリカの発展と共に
ハミルトンがアメリカ国民に愛され、成功に至った最大の鍵。それは国政との繋がりです。
当時の拡張するアメリカ国家にとってインフラ整備は不可欠でありました。特に鉄道は国民の経済・産業・生活を営むための基盤となります。
そうです。アメリカ大陸横断鉄道※1でございます。
ハミルトンの正確な時計は鉄道のタイミングを同期させ、事故の防止と軽減に貢献したと評価されました。ハミルトンの鉄道時計は“レバー・セット・ウォッチ”と呼ばれ、時刻を合わせるにはリューズとは別に配置されたピンをスライドさせてから、リューズを回して時刻を合わせる必要があります。
それまでのリューズの段引き操作では、飛び出ている大きなリューズを誤って引いてしまい、意図せず時刻を操作してしまう危険を孕んでおりました。“レバー・セット”の時刻合わせは一手間多くなりますが事故の防止に繋がりました。
鉄道会社はハミルトンが作った時計をすべて購入。最終的にハミルトンはアメリカ市場の56%以上を独占するようになりました。
1918 年以降、航空時代に入るとハミルトンが送り出した鉄道時計の正確性と堅牢性が高く評価され、多くの航空会社に採用されています。
アメリカ大陸間の新しい航空郵便サービスを時間通りに保つのに役立ちました。以来、ハミルトンは航空界の代名詞となりました。
……時は流れ、戦争へと突入して行きます。
ハミルトンは軍に奉仕するために、消費者向け製造ラインを全て廃止します。アメリカ軍への時計サプライヤーとなり国家事業用ビジネスに再構築します。
第一次世界大戦、約200万人のアメリカ兵がヨーロッパに遠征しました。第二次世界大戦、1945年度は徴兵数は1,205万人。1942年〜1945年に渡り、100 万本以上の時計を納入。特に海軍は最大の軍事顧客の一つであり、マリンクロノメーターは 10,000個以上納入されています。
1892年以来ずっと国家プロジェクトに参入しており、当然の事ながら全てが莫大な受注となりました。
よく在る「国との商売だから」談合や癒着などといった野放図な展開はございません。時計メーカーで在るからこそ、他業種では求められないインテグリティ「誠実さ」をより強く求められるイメージはあるでしょう。
戦中の時計サプライヤーを通して、アメリカ国民の「命」や「生活」を守るイメージが広く深く浸透していったのではないかと考えます。
戦後のターゲットシフト
アメリカ国家へハミルトン時計の実績を示すことは、アメリカ国民の信頼を得ることに繋がりました。
ハミルトンの時計の実績は確固たるものになりましたが、如何に技術や品質が素晴らしく、顧客と親密な関係を築く体制を整えていたとしても、それ以上に顧客にアピールすることが出来なくては全くの無駄になってしまいます。それは今も昔も時計業界に限らずどの業界でも同じです。これに関しては、当店も考えあぐねております💦
戦後はエンドユーザーにシフトした製品の方向転換と販売展開を見事に成し遂げております。
ギフトには時計を!
現在でもお祝いとしての品、自分へのプレゼントとして購入される機会が多いと思いますが、お祝いの品としてのご購入は随分と少なくなって来ているのではないかと実感しております。
現代では多くの物が溢れ、プレゼントとして時計以外の選択肢も多岐に渡ります。また何処にいても、たとえ時計を持っていなくても時刻を確認出来るツールが多くございます。よって“実用性”としての時計の役割が低減しており、お洒落や嗜好品、資産価値を目的としたご購入が殆どになります。
購入して貰うタイミング。家族構成別購入層の開拓。「こんなシーンには時計を贈りましょう!」と展開しております。
動画はハミルトンのコレクターに教えていただいたのですが、1947年のハミルトンのPVがとても面白いです。大切な人に時計を贈るという事の意味合いは、現代よりもずっと深かったことがお分かり頂けるかと思います。
もしかして、このイベントをより定着させたのはハミルトンなのかも知れませんね(笑)
加えて、ペンシルベニア州ランカスターの工場での時計製造について詳しく説明しています。2時間毎に油を交換しているのには驚きました。非常に良く出来た作品ですね。
お父さんが息子に時計をプレゼントするシーンでは
父:「私もお前と同じ歳に祖父から時計を貰った。父は“時間を厳守”する人だった。時間の大切さを何度も何度も私に伝えた。それが他人にとっても自分にとってもどれほど意味があることかを。」
「他人の時間に対する迅速さと配慮が、自分の人格と誠実さの証である」と。
もうこれは、大切な人に時計を送ろう! って気分になりますよね。
場面は変わり……
「素晴らしい時計を作るには人が必要です。彼らは良い時計を作ろうという理想と野心、そして職人技への誇りを持った人達です。時計は厳格なテストに合格した選ばれた人によって作られます。それに至るまでは長い年月を経て、まるで父が息子へ教えを与えるように友好的な監督下でレクチャーを受けます。そして、彼らは適切なスキルと資質を持った人達になります。」
かなり意訳ではありますが、ザックリこんな感じです。
流石はハミルトン。人材を“人財”として大切にしている姿勢。非常に好感が持てます!
好きな時計を選んで賞金を獲得しよう!
またこんなイベントを数多く開催していました。
女の子〜、男の子〜🔔
それぞれ6本の時計から好きな時計を選んで、選んだ理由を25文字以内で書いてね。
対象:高校生、予備校生、中学生(9〜12年生)に現在在籍していること。
ハミルトン社員、その子会社、広告代理店の従業員、またはその近親者にはエントリー資格はありません。
1位:選んだハミルトンの時計と賞金200ドル
2位:ハミルトンの時計を1年以内に購入、またはプレゼントで受け取ったハミルトンの時計と同等の金額賞金と賞金100ドル(販売店のレシートコピーをエントリー時に添付すること)
3位:賞金50ドル
4位:賞金25ドル
5位:10ドル相当の商品
大盤振る舞いです。子供の頃からハミルトン❤️大好きになってしまいます。キャンペーンだからと言って安っぽい時計ではありません。
こんなキャンペーンを定期的にやっていたら、誰にとっても身近な時計メーカーになるに決まっていますよね。
また、社外報「The HAMILTON TRAVELER」にはこんな物語も。
〜鉄道時計として40年働いた時計:Cal.994モデルNo.2。
彼(No.2)が現役を退いてハミルトンの工場戻って来た時、展示用として保管れていた同じキャリバーのモデルNo.1に出逢います。
2本はお互いの思い出の小道を辿り、小気味良くテンワを回しながら語り合います。
オーバーホールしてもらったNo.2は常時展示時計として新しい仕事をスタートします……。
ノンフィクションと時計を主人公にしたストーリーが面白いですね。
加えて、シッカリ設備増設と業績UPの報告もされています😁
あの映画で観た時計が欲しい!
ドラマや映画で着用された時計は、昔も今も話題になりますよね。姉妹店「きよみのアンティーク」で最も多いお問い合わせは、やはり「ロレックスのカメレオンのスターダイヤル」です。ドラマ「ヤマトナデシコ」の放映はもう20年以上前なのですが、主人公の方がプレゼントで受け取った時計がそれでした。
映画ではやはり「007シリーズ」のオメガでしょう。
スクリーンの有名俳優に着用させ、観覧者の購入意欲を煽る。この流れをより確立させたのはハミルトンなのです。
ハリウッドのアクション映画からSFやクラシックまで人気映画。ハミルトンは映画を観た人々の記憶に残る時計を多く製造しています。約500以上の映画にハミルトンの名がクレジットされています。使われた時計の枚挙にいとまがございませんのでザッと取り上げます。
『ブルー・ハワイ』:エルヴィス・プレスリーがベンチュラを。
『007 Live and Let Die死ぬのは奴らだ』ではパルサー。
『リプリー(太陽がいっぱいのリメイク)』ではアードモア。
『メン・イン・ブラック』『スパイダーマン』でもベンチュラ。
『ダイ・ハード』『パールハーバー』『ジャック・ライアン』『アベンジャーズ』『インターステラー』『オデッセイ』ではカーキ。
『インターステラー』でマーフ。
『オーシャンズ8』『オデッセイ』『TENET テネット』ではジャズマスター。
こうして観るとアクション映画にはカーキが多いようですね。
個人的には『2001年・宇宙の旅』のカスタムウォッチが印象に残っております。キューブリックのオーダーで「未来的なデザイン時計を。」とのこと。
最近では『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』にボールトンを。
しかし、残念ながらコレが物議を呼んでおります。確かに今回の舞台は1969年の設定ですが、だからってインディが着けていた時計がクォーツだなんて😅
古代文明と言語について深い知識を持っている考古学者であり冒険家のインディ。
精度が気になるからクォーツなのか?手巻きが面倒なのか?ステンレス・スチールケースのイエローPVDについては言葉も出ません。一体どうした?ヘンリー・ウォルトン・“インディアナ”・ジョーンズ・ジュニア博士😢
コレは彼らにも聴いてみるべきでしょう……
……
…… …… やはり皆怒っていました(笑)
A:「ボールトンはアメリカン・クラシックコレクションの中で最も重要な時計の一つだよ。14Kのケースと982機械式ムーブで販売されたんだ。なんてことしてくれたんだ!」
B:「見た目は素敵だけど……1969年の老人がクォーツ時計?これは歴史的な参考にもならないよ。期待していたけど今回は機械式を待つ方が良いね。」
C:「インディアナ・ジョーンズは絶対に電池式の時計を使用しないだろう。忌まわしい。」
私と同意見が多かったのですが、かなりキツめなコメントまで飛び出す始末。
残念ながら今回は完全にファンの期待を裏切ってしまったようです。ならどうすれば良かったのか?意見をまとめたところ、
「本体価格が上がっても良いので、ここは金無垢や最低でもGPのケースで機械式にすべき。」ということに至りました。
なんだかんだ言っても
“ハミルトンはアメリカ人に愛されている”
と改めて実感しました😄
今後の展開がますます愉しみなハミルトンです。
ABUNDANT TIME 代表 壽藤
※1横断してない?大陸横断鉄道??
1830年、商人Asa Whitneyさん「アメリカ大きいから商売するのが大変です。鉄道敷いて下さいよ〜」との訴えから始まりました。
鉄道建設法案を議会に可決させようと長年努力したのですが失敗しております。
1860年代になってから、Theodore Judahさんがシエラネバダ山脈を調査して、鉄道を建設可能な峠をやっと発見します。そして再度、鉄道建設を求めるロビー活動を始めます。
1863年、リンカーンの承認でやっと開始された大陸横断鉄道は1869年に完成します。「ロックで大陸横断鉄道!」って受験の時に暗記した記憶がございます😆
今までアメリカの中心地は東海岸でしたが、やっと西海岸まで伸びました。
険しい山道だけで無く、盗賊やファーストネーションズからの激しい襲撃もあったりしておりましたが、人だけで無く、郵便物、物資、貿易品などを安全に僅か数日で輸送可能になりました。リンカーンの偉業の1つとして語り継がれていますよね。
ユニオン・パシフィック鉄道がネブラスカ州オマハから西向きへ、セントラル・パシフィック鉄道がカリフォルニア州サクラメントから東向きへ工事進行します、左右から進んで行って、最終的に真ん中に位置するユタ州のプロモントリーで合流しています。
1869年5月11日。開通式で最後のレールに打ち込まれた「犬クギ」は“ゴールデン・スパイク”として、現在でもユタ州のスタンフォード大学のギャラリーに展示されております。
そして港のあるサクラメントとサンフランシスコが結ばれたのは11月になります。
厳密に言うとネブラスカ州のオマハは中西部なので、西海岸から東海岸まで通っていません。つまり、アメリカ大陸を完全に横断していないのです。せめて開通式は西海岸のサンフランシスコと繋がるまで待てなかったの?
なんだかモヤモヤ☁️っとします。
大陸横断鉄道のエピソードはとても面白いのですが、非常に長くなりますので私がよく観ている彼のYouTubeチャンネルをご覧ください。(それでも簡略化されていますので、全てではございません。)